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手作りスピーカー しょの1

「手作りスピーカー しょの1」
とうとう・・こう言うオタクな話の日が来てしまいました。スピーカーの手作り編です。
手作り「偏」でしょうか・・・まあ冗談は置きまして・・・。

20061129_bnc01.jpg

これは今から10年位前のお話です。

長岡先生の傑作設計、スーパースワン(長岡先生の型番で、D-101Sです)の手作りが小生の始めての自作スピーカーでした。
その経緯は前回のお話にございました・・・。

ざっくりした流れは・・・。

アメリカのCESでEPOS社のスピーカーに感動し、それからネットワーク回路の排除が良さそうだと学び、さらに秋葉原でFOSTEX社のフルレンジを1発入れたスーパースワン(長岡氏命名のこのスピーカーの愛称)のデモに驚嘆し、調べていくと長岡先生のバックロードホーンの素晴らしさを知る・・・と。いろいろ曲折があってこの自作への挑戦になったのです。

まず自作への第1歩として、設計図面の入手・手配を考えました。

それは、長岡先生の著書のリストから、確か「バックロードの傑作」と言う本を探し出しこれを購入しました。
この本のスーパースワンの説明は、図面も含めてかなり丁寧な解説があり、15ページくらい割いてあったと思います。

バックロードホーンの理論も分かりやすく解説があり納得しました。

つまりはこうでした。

バックロードホーンは小型のフルレンジスピーカー1発で、すべての音声帯域をカバーするための「工夫された箱のスピーカー」でした。

小型のフルレンジスピーカーユニットは、振動板が小さく軽いので、音の信号への反応が速く、中高音は品位が高く、とても良い音の物があるのですが、どうしても振動版面積の小ささゆえに、低音の再生の時にはコーン紙が空気に対して空振りの状態になってしまい、低音不足になるのです。

そこで、小型フルレンジスピーカーの宿命である低音不足を補うために、スピーカーの後ろに出る音(スピーカーは前と後ろに音が出ています)をだんだん太くなるラッパのパイプに導き拡大します。・・・このあたりの話はすべて長岡先生の理論の受け売りです・・・。

この時ラッパの設計で、低音に対して有効で、高音には反応しないようなラッパを設計しているようです。

現在なら故長岡先生の全図面集などがありますので、図面の入手は比較的簡単ですね・・。
小生はこの本を何回もじっくり読んで、内容の把握に努めました。

かなり難しい構造で工作も大変そうでした。写真の様な完成形になるのですが、下側の大きい箱の中は音の通り道が折り曲げられてビッシリ入っています・・・。ラッパですから音の通り道はだんだん大きくなっていくのです。

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再塗装前に紙やすりで丁寧にサンディングしました。きれいになります。

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小生この工作で、少々でも楽をしようと思いました。
秋葉原で、この手のスピーカー材料を売っていますのは木村無線さんやコイズミ無線さんが有名です。
小生ラッキーにも、たまたま木村無線さんの方でシナベニヤ材のカット済みの商品を発見しました・・・。
ユニットメーカーのFOSTEX製。シナベニヤ板の「カット材」なるものを・・・。

スーパースワンの図面どおりに材料をカットして綺麗に番号などスタンプし、段ボールの箱に梱包してあります。・・これは便利だろう!!と少々高くても買いました。
お値段は1台分確か?3万3千円だったと思います。
ステレオでは2台ですので6万6千円・・ベニヤの材料でもかなりお高いんだなぁ・・とおぼろげに記憶しています。

板材は音響用シナ合板・・などと書いてあり、ダンボールの箱もしっかりとしていて、それらしいものでした。

これ以外の材料も、この時は木村無線さんで買ったのですが、内部配線用のコードが1mくらい・・・ドイツのスピーカーコードでごく普通のものと、ミクロンウールという吸音材を一つ。

東京メタルと言う会社製の粒状の鉛を10キロくらいと、鉛のインゴットを4本。
鉛の重さだけで合計20Kgだったと思います。

スーパースワンにはその箱の中に、音質への効果を狙って鉛を充填する穴が設計されており、そこに鉛を入れろとの指定がありました。
金額は忘れましたが、「鉛」は少々驚くくらい、お値段がお高かったです。

それに、このスピーカーにアンプからのコードをつなぐための端子、・・・ネジでコードを締めて止める端子が、FOSTEX製のT-150?とか言うもの・・・(店の推薦品)2個で3千円くらいでした。

肝心なスピーカーユニットは限定品・・・FOSTEXさんが限定生産で500個とか1000個だけ作る、完全な限定モデルが長岡式のバックロードホーンでは良く使われますのですが、今回のスーパースワンの使用指定は、その限定モデルでした。

FE-108Sというユニットがそれで、このSがスーパーの略です。

外見は良く似たバックロードホーン用の通常の定番ユニット(いつでも買える非限定のもの)FE-108Σ(シグマ)とはコーン紙からマグネットの大きさなどまで異なり、雑誌などでは「別物」と表現されておりました。まあこの限定品は相当の強力型・・・でしょうかね。

すぐ売り切れてプレミアが付いてしまう限定ユニットですが、その時は、それを運良く2個買い求めることができました。30,000円くらいです。

限定品ですから?残念ですが秋葉原でも価格交渉は出来ません。値引きは無いです。

なんやかんやで材料が初期のモデルで10万円くらいかかりましたです。

(その後、このスーパースワンは、ツイーターの追加や新型ユニットへの交換や、贅沢な真鍮の取り付けリング[1個1万3千円くらい]の追加もしています・・写真は最新の状態です)

つまり小生はFOSTEXさんが最新技術の開発で10cm口径のバックロードホーン向きの新型の限定ユニットを販売される度に、これを入手し、同じ箱に入れ替えて取り付けて使ってき
たわけでございます。

オット・・・。まずは作るところでした・・・。

実際の制作はどんなであったか・・と申しますと。

まずは部品のベニヤ板の過不足がないかの確認をして、番号にしたがって並べ、図面の中に記載してある組み立て公式・・例えば(1+2+3)+4は・・・1のパーツに2を着け3を着け、そこまで出来たら4に組み合わせる・・と言う公式です・・・に従って組み立てます。

これは始めての工作で、いきなり部品も多く構造複雑で、組み立ての難しいスーパースワンに挑戦!ですから大変でした。
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直角を出すのに「差し金」と言うL字型の物差しを買ってきたり、木工ボンドの乾くまでの小一時間の間、材料を固定して締めて置く金具・・「ハタ金」といいます・・・を入手したり。

組み立てていくとズレが生じてくるのですが、それを削るカンナも登場しました。

もともと看板・内装業を家業とするのが生家ですから、小生はかなり木工とかは得意で、道具もそこそこ持っていましたし、日曜大工さんとしては、そこそこのレベルなんです・・。自分で言うか!!

それでも初めてですから一週間も掛けて組み立てました。ちょっとづつ。

木工ボンドと釘の併用で強度は万全です。釘打ちは相当得意です。曲げません。なーんて。
仕上げは初めから真っ黒の塗装をラッカーでやろうと思っていました。

釘を使うので頭が出ますし、木目は無理です。ですので、釘頭をパテで隠したら真っ黒なラッカー塗装です。これはスプレーでやりました。

組み立て。配線。仕上げ前の紙やすり掛け。など、なんだかんだで2週間。
完成しました。

いよいよ音出しです。

鳴らし始めは、実はあまり良い音ではありませんでした。
積極的に「ひどい音?」でした。

低音は不足だし、音自体も硬いというかキンキンします。ボーカルは鼻をつまんだようです。
・・・そうです。これがエージング前の音。作り立ての音なのです。

毎日使ってどんどん鳴らしますと、音がこなれて日に日に良くなります。

箱も工作の時に無理やり釘で固められたり、速乾木工ボンドで固められたりしたので、素材にストレスがあるのですが、これが10日くらいでかなり取れてきて、30日くらいで相当落ち着くようです。

板のストレスが取れると音が良くなります。・・不思議です。

ユニットも音を出して1ヶ月くらいでコーン紙の糊などが落ち着くのでしょうか?相当良い音になります。

一ヶ月くらいで低音が出過ぎる程になり、いよいよ鉛の投入です。
鉛投入で箱の振動が止まったせいか、また低音不足になりました。・・・がさらに一ヶ月でまたバリバリ低音が出始めました。

トータル4ヶ月目くらいでは高音の繊細さ、低音の量感・・すべてに申し分ありません。

いやいや全く凄いスピーカーでした。
小さいユニット一個で低音から高音まで・・・。
凄い反応が早いスピーカーで、音質も良くて、音源は小さな箱なので音場感(おんじょうかん)が抜群で、録音した演奏会場の雰囲気が伝わりました。

小生がこの頃使っていた基準のCD(視聴用のCD)は、リー・リトナーさんの「カラー・リット」というアルバムでした。
エレガットの音の立ち上がり・・・の気持ちよさを聴いていました。
スーパースワンは優秀でした。
大好きなリー・リトナーのギターの音が「カーン」と抜けてきます。
ピッキングのタッチが見えるような感じと言うのでしょうか、エレガットのタッチが分かります。
シンバルやハイハットの「切れ」も抜群と思いました。
低音感も十分で不足は感じませんでしたし・・。
音がシャワーのように顔にぶつかる感じと言いますか・・・長岡先生の言われるハイスピードと言うのはこれなのだと思いました。

ボーカルやクラシックのバイオリンなども涙物でした。
女性ボーカルの生々しさは特筆モノで、目を閉じると「目の前にいる」感じです。言い過ぎかなあ?とも思いますが、あの時、本当に「目の前で歌ってる」・・・そう思いました。

また、室内楽では、録音の良いCDですとバイオリンがホールに響いている・・・素晴らしい音場が展開して、引き込まれてしまいます。

FOSTEXさんの小口径の限定品・超強力ユニットを使ったバックロードホーン・・・(スーパースワンの様な・・)と言うのは凄いスピーカーだと思いました。
しかし、これを体験している方は、おそらく本当に少数の方・・自作の面倒くささと戦った少数派・・・ですので、広く皆さんには・・・なかなか信じていただき難い・・とは思います。

しかし、良い音はちょっと・・・生活を楽しくしてくれます。本物とは行かないですが、感動できるくらいには音楽に浸れますから・・・。
ちょっとだけ得した気分とでも言うのでしょうか・・・。

こうして、この時の体験で小生、スピーカーは自作に限る・・などと思ってしまったのでした。

この時、それまで使っていた愛器。
片側5万円ほどの国産メーカーさんの30cm3WAYスピーカーは、エージングのできたスーパースワンの前では、比較の勝負にさえならず引退させられ、知人に貰われて行きました。
ご苦労様でした。

小生のスーパースワンが、その後10年の長きにわたってエース・スピーカーの座を維持できたのは、2~3年に一度くらいのユニット交換のおかげです。
FOSTEXさんの技術開発の進化で、同じ口径の新型が出て来たおかげです。
ドンドン高性能ユニットが提案されましたので、その度に買い替え・入れ替えで「生まれ変わった音」で楽しめたのですね。
このあたりは本当に自作品の良さ・・ならでは・・・ですよね。・・。

かくして、小生はちょっと『あの音・・』に近づきました・・・。

(この秋、拙宅の狭さの中、新しいスピーカーシステムを制作し、追加・入れ替えをやりましたので、スーパースワンは置き場所が無くなりました。で、泣く泣くですが、友人宅のエーススピーカー就任のお話になり、彼に譲りました。・・最後に紙やすりで丁寧にサンディングして、一生懸命再塗装しました。お化粧でかなり綺麗になって、現在は浦安方面で愛され・活躍しています。彼はこのスピーカーを使い始めてから「まるで外出嫌いな人・・・」のように毎日音楽が聴きたくてたまらないのだそうです。そこで、かつての愛聴盤(ロックからクラシックまで)を全部聴きなおしてみたいとか言っていました・・・本当に音質に嵌ったそうです。彼は若い頃からバンド・楽器をやっていたので、嵌ってしまうのだとも・・・。最近ではカーオーディオもこのスーパースワンとは音が違いすぎて、もう聴く気がしなくなった・・・との事です。・・・本当に良かったです・・・。気に入ってもらえて・・。)

※このバックロードホーン形式のスピーカーは、好き嫌いがはっきり出るスピーカーのようで、全くダメで、嫌いと言う方もいらっしゃると聴いております。
耳が良くて、周波数が分かるようなタイプの方にとっては、低音の特定周波数のピークとディップ(特性の凸凹です)が耐え難くて聴いていられない・・・とか、中・高音が雑で・ラフで、うるさくて聞けた物ではない・・・という方もいらっしゃるようです。
本項のスーパースワンも、お作りになって、聞けた物ではないので、すぐ捨てた・・と言う方もいらっしゃるそうですので、この内容は、あくまで小生の感覚でありまして、自分の好みでございまして、客観的な比較とは申せませんので、その点、一ユーザーまたは小生が譲った友人の方の主観といたしまして、悪しからず、お許し頂ければと思います・・・。

11-29-06 11:34