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手作りスピーカー しょの2

「手作りスピーカー しょの2」
1本作ると悪乗りして・・・2本目・3本目も・・・と言いますのが、この『しょの2』以降の話です。
今回はスピーカーの手作り「偏」の2回目です。(笑)

20070113.jpg

何しろ自作の趣味は、置き場所も無いのにドンドン台数が増えますから・・・(笑)
スーパースワンの好結果で味をしめて・・・制作して半年くらいから、もう次の作るものを物色し始めていました。
スーパースワンがこんなに良いんだから、長岡先生の設計の然るべき2作目を選択し、それを作って、「2台をスイッチで切り替えて、それぞれの違い」を楽しもう!!等と調子に乗りましたのです。
自作の結果が良いと、「聴くために作る」と言うより、だんだん「作るために作る」と言う調子で、作る事自体が楽しくて、「目的」になって・・行きます。
困ったものです・・。
長岡先生のスピーカー制作関係の本も、この頃では、数冊持っており、熟読していました(笑)。

当時、小生はオーディオにまた目覚め、雑誌も定期購読し始めていました。
月刊ステレオ(音楽の友社)です。
この雑誌には、長岡先生が新作スピーカーを考案されると、そのかなりの部分を発表していました。
特に毎年7月号のクラフト(手作り)の特集では、何作も設計され、成果を出されていました。

D-37・・・という、少々大型のバックロードホーンスピーカー。
FOSTEXさんの、口径16cmの限定ユニットを使用したこのスピーカーが、当時の小生の憧れになっていました。

超強力型バックロードホーン用ユニットを入れた、CW型バックロードホーン。
CW型とはコンスタント・ワイズ型のこと・・・幅が一定で高さ方向が変わる事でだんだんに音道が大きく広がってラッパ状になっているタイプのこと・・・。

ちなみにスーパースワンの音道は、幅も高さも途中でドンドン変わりながら拡大してくるのでCW型ではないですね・・・。

2作目にしては、このスピーカーは大変大物ですが、これを作ろうと決心しました。
ユニットはFE-168SSと言うユニットです。
口径は型番どおり16cmですが、マグネットはなんと2枚重ねで超・超・強力です。
このユニットではコーン紙を強力な磁石が引っ張っているので、(こう言うユニットを「オーバーダンピング」のユニット・・ダンピングし過ぎ・・・と言うようです)コーン紙が軽くは動かないので、普通のバスレフなどの箱に入れても低音不足のひどい音になる・・と言われるユニットです。
しかしバックロードホーンで、設計がうまくピッタリ合いますと、ハイスピードで締まった(豊かな)凄いリアリティーの低音が出てきます。

凄い・凄い、鳴らすのも難しい、手強い強力なスピーカー・ユニットなのです。

チャレンジを開始しました。
板材はまたFOSTEXさんのカット材を利用しました。
このカット済みの材料はお高いですが、カットの精度が良いという事で・・当時はこれを利用していました。(最近は有名な広島のMAKIZOUさんにカットをお願いしています)

このスピーカーは出来る限りの丁寧さで組み立てました。
ユニットの取付けには、開口部のネジ穴部に裏側から「つめ付きナット」と言うのを打ち込んで、表からのネジ止めを可能にし、緩んでボロボロになりやすい不安定な木ネジでスピーカー・ユニットを固定しないようにしました。

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木ネジは木の繊維をネジの螺旋が押しのける分だけの力で効くものですから、金属と木の摩擦の力が限界です。
しかし、金属のネジとつめ付きナットの場合は、文字通り金属のネジ同士の締め込みになるので万全です。

また、木ネジによるユニット取り付けでは、その後の調整などでユニット交換をしたり、2回3回とユニットの着け外しをしますと、ネジ穴が大きくなって、ユルユルのバカになってしまいます。

この工作では、組み立てた音道の直角のカーブや、180度の折り返し部には、外側に三角の板材を付け、音が反射してスムーズに音道を進むようにしました。

20070113_003.jpg

この加工は長岡先生の設計制作レポートには無いやり方です。
先生はそこまで丁寧な事はしないで制作し、性能を測定しています。

何でか?を考えたのですが、長岡先生は、このスピーカー制作で、誰がやっても同じ事ができるように、結果が近づくように、再現性が高いように、板の材料は普通のシナベニヤで作るし、三角材によるスムーズな音道作り・・・の様な難しい加工などをやらないのです。・・・これは本当に見識ですね・・・。
それで変わったモノを選んだり、難しい加工などをしていないのです。

で、実際のバックロードホーンでもこの三角材の効用は諸説ありまして、小生には良いのかどうか、分かりません。
低音の豊かさのためには、かえって、こう言う凝った三角材の工作・配慮をしない方が良いという話もありますので、大変微妙です。

三角材のコーナーの効用は精神安定だけに効果的という方もいるようですから・・・。

まあ、やらないよりはやった方が良さそうだ・・くらいでしょうか。

でも、やるとなると、こう言う加工は本当に根気が要ります。
色々な太さの角材を買ってきて、それを長手方向に斜めに割いて使うのですから・・・。
角材の斜めのカットはDIYのお店では、機械で出来ないので、引き受けてくれませんので、自分の手で鋸で切ることになります。
これはなかなか難しいし、体力的にも結構大変です。
足の裏で角材を踏んで固定して、鋸のたて引きの刃で切ります。

音道を形作るパーツごとに、丁寧に木工ボンドと木ネジで組み立て、それらを組み合わせて側面の板に固定するのですが、その側板への固定には、音道の5cmおきくらいにコースレッドという細身で板の割れ難い木ネジで、パーツを固定するのです。

20070113_004.jpg

これで、「箱」はコースレッドでガチガチに締め上げられて、大変強固なものになっているはずです。
素人の工作では、やはり木工ボンドとコースレッドの使用が強度を決めると思います。
強いのは釘よりネジ・・ですね。(しかも接合面は木工ボンドで固めていますから・・。)

当時はまだ2作目で、
①段取りが悪い。なにかと要領が悪い。
②失敗しないように過剰に丁寧で三角材などに拘りすぎ
③仕上げにカシューという乾燥時間が掛かる人工の漆塗りを選択
等のせいで、工作期間は6ヶ月掛かってしまいました。

殆どはカシューと言う塗料の乾燥を待つ時間でしたが・・・。
一回塗ると完全に乾燥して次に耐水の紙やすりで研げるようになるのが3~4日後くらいなのですが、会社の休みの関係で1週間おきにしか作業できませんでした。
塗って、翌週研いで塗って、また1週間後に研いで塗って・・・の繰り返しです。10回近く塗ったでしょうか・・・。とても下手でしたから・・・。

塗装が終わると今度は砂利入れです。長岡先生の設計のバックロードホーンの箱では、D-37のようなCW型の場合、音の出口部分が、だんだん広がる階段のようになっており、その階段の一段一段に砂利を入れて階段の形を整え、かつ砂利で重量を持たせて低音の再生に備えています。

やはり重いと箱の振動を押さえ込めて、低音が前に出るそうです。
綺麗な砂利を・・と思い、茨城県産の寒水石(かんすいせき)という白い結晶質石灰岩の砂利をホームセンターで購入し、水で荒い、天日で乾燥させ入れていきます。結構な量が必要で、洗った砂利を乾燥させるのが容易じゃあありませんでした・・。

本当にすべてが根気でした。

完成したD-37は真っ黒な、文字通りの漆黒。
ピアノブラックのD-37は美しく完成し、なんとか音出しの日を迎えるのです。(6ヶ月は本当に気が遠くなりました・・・息子が2歳の頃だったので子供部屋が工作室に流用できたからこそ・・の工作でしたが・・・)

音出しは、やはり「ひどかった」・・・のでした。
モコモコ不自然なギターの音、鼻をつまんだような女性ボーカル。キンキンして低音が出ない。特定の音で共鳴してカンカン、ボーボー言うような感じがします。
スーパースワンの作りたての時の音より、遥かに酷い音でした。
いや作ったのを一瞬後悔した位、本当に情けないほど酷い音でしたねー。

この頃のパルプでできたコーン紙のユニットはエージング(加齢・・・AGE INGですね。いわば慣らし運転でしょうか)に時間が掛かるようでした。(現在ではコーン紙の素材が変更されて、小生の感覚では殆どエージング不要な程、初めから結構良いそこそこの音が出てます)

こう言うユニットのエージングはユニットの大きさが大きくなる毎に時間が掛かる様に成るとは言いますが、直径16cmの大型のスピーカーだけあって、本当にエージングにも時間を要し、絶好調!!になったのは、なんと、「一年後」くらいから・・・でした。
(このエージングの時間については、知識として本で読んで、知ってはいましたが、実際に一年ほど掛かったのは妙に驚きに感じました。)

しかし、しかしです!!
エージングが進みますと、これまた作りたてとは別物でございました。

高音域の切れ・切れ込み、低音の締まり、量感、中音域はもともと大型とはいえ、フルレンジ・スピーカーですから、大の得意で、澄み切って浸透力がありました。
何を聞いても最高です・・。ジャズ・フュージョンは特に良かったですが・・。

本当に始めて体験する音で、ストレートで情報量が多く、切れも抜群で迫ってくる・・・と言う音でした。
大変気に入りました!!!
これがバックロードホーンの音か!!と感動したものです。
音が「ツブツブ」になって顔をめがけて凄いスピードで飛んできて、「パチパチ」当たるような感じがしました。

音楽が余りにも情報量が多く、かつ凄いスピードでこちらをめがけて飛んでくるので、結果としてイージーな“ながら聞き”には不向きで、音楽と真剣に対峙する聞き方を要求されてしまい、リスニング後は少々疲れてしまうくらいのスピーカーでした。

こういうスピーカーを聞くと、音楽に心が持っていかれてしまう分、他の嫌な事を考える余裕が無いといいますか、忘れているようで、本当にストレスが取れるのを感じました。

D-37はこの後しばらくスーパースワンと2台でエースとして活躍しました。
2台を切り替えて、ジャズ・フュージョンはD-37、クラシックやボーカルはスーパースワンでした。
ですが、また数年後には、このエースも新しいユニットのD-37(ES)を作るために置き場所が無いので、知人に下取られて貰われていきました・・・。
現在は上尾方面で、元気に活躍しているそうです。

こうして、自作のスピーカーを数台作ってみて、なぜ、それがこんなに音が良いと思えるのか?を改めて素人の小生が考えて見ました。(もちろん自分の好みもありますが・・・。)
すると、それは、結局、低音から高音まで一個だけのスピーカーで鳴らすフルレンジスピーカーを使っているからだろう・・・に至っています。

よくある市販のスピーカーのように、低音・中音・高音と三つのスピーカーで鳴らす方式を3WAY(スリーウェイ)方式と言いますが、この場合音を低・中・高と分けるために抵抗やコイルやコンデンサーなどの電気部品を使った回路が必要になります。

この回路=ネットワーク回路と言います・・・が小生の好む音、直截な音、何も足さない何も引かないまっすぐな音、には良くないのだと思います。
微妙に言いますと、音の出るタイミングがズレる様だ・・とのことです。
低音用のスピーカーと中音用のスピーカーと、高音用のスピーカーに同時に音が来ても、回路を通る事で、各ユニットが一斉に動かずに、ほんのチョット動き始めがズレる・・・。
こう言うことを「位相ズレ」とか言うそうですが、こう言う微妙な事が、人間の感覚では分かるようなんです。

フルレンジでネットワークが無いと良い音だ・・という感覚は、アメリカのCESでEPOSという回路を廃したスピーカーの音質に出会った時から、やはり変わらず・・・そうだ・・と小生は思っています。

もちろん諸説有りますようで、高度に設計制作されたネットワーク回路は、相当良い音なのだそうですが、我々素人が作る場合には、メーカーの技術者さんの様な高度な耳がありませんし、コンデンサー1つを決定するのに何十種類も聞き比べて決定するような環境もありません。
ですので、ネットワーク回路の高度なチューニングは、素人には殆ど不可能と言うか、難しいのではと思っています。

ですので、素人の自作スピーカーシステムはフルレンジスピーカーで作ると、結果的に安全ではないかなあ・・・と思っています。
そして、出来ればフルレンジには高品質なスピーカーユニットを使い、低音を補うのは箱(バックロードホーン)というのが、あくまで自作の場合の良い選択では?・・と思っています。

(この後、小生は相当な数のスピーカーを作りますが、1台を除いて全部がフルレンジ・バックロードです。)

長岡先生設計のスピーカーの自作経験では、このD-37の後に、D-102と言うのが有ります。(その後も殆ど長岡先生の設計を作ってますが・・・)
キッカケはスーパースワンに向く新型ユニットが開発されたので、ユニットを交換したからでした。
新型の10cm口径のバックロード用の限定ユニットがFOSTEX社から出ますと、このユニットを無理しても購入し、スーパースワンに導入します。
ユニットを交換をしますと、古いユニットが外されて・・・余ります・・・。
もったいないのです。これが・・。
この余り・・の有効活用で新しいスピーカーを作る大義名分が出来てしまいます・・・。

結局D-102というブックシェルフ型のバックロードホーンを長岡先生の設計どおりに作る事にしました。

このスピーカーは、棚などにも置けるブックシェルフ型であるにもかかわらず、正真正銘のバックロードホーンでありました。
普通の箱の形状の内部に、バックロードの複雑なホーンを折りたたんで収めた設計は、空間を立体的に認識する設計能力・センスの賜物と思われました。
この設計は本当に天才のものだなあ・・と感心し、大変気に入ってつくりました。

安いラワン合板を購入し、ドイトさんで直線のカットだけしてもらい、丸い穴や四角い穴はジグソーを買って自分で加工しました。
例によって図面どおり組み立て、ラッカー塗装で黒く塗り、ユニットを取り付けました。
そこで、スーパースワンとの違いを思い知ったのです。

同じ長岡先生の設計によるバックロードでもこのD-102は・・・設計が古かったのです。
FE-108スーパーのような強力ユニット向きの設計ではなかったのです。


作ってみると、箱に対して余りもののFE108スーパーというユニットが強力すぎました。
低音が全然出ませんでした。
スーパースワンで2年ほど使ってきたユニットなので、もうエージングは十分出来ているユニットです。それでも低音が出ませんでした。

これには参りましたが、結局何の事はなかった?のです。
限定の強力型ユニットの流用を諦め、FE108Σという普通に定番で売っている、やや弱いバックロード用のユニットに入れ替えました。

そうしたらこの箱が生き返りました。低音が元気よく出たのです。
箱とユニットには、設計上の合う合わないがあるのを知りました。

余り品のユニットの活用の筈が、新しいモノに出費することになってしまいました。
もともと、このスピーカーはローコストに作るためにシナ合板を諦め、安いラワン合板を採用し、かつ、ドイトさんで安くカットもしてもらい・・と頑張っていたのに・・・結局2万円ほどの出費でした。
えてして、そう言うものでしょうかね・・・。

このD-102はユニットも標準型で、それほど凄い音では無いのですが、バランスがよく、聴いていて疲れない音質でした。
スーパースワンでは低音の出るラッパの出口は箱の後方に大きくポッカリ開いています。
後方出し・・・なのです。
低音というのは、人間の耳では音のする方向を聞き取れませんので、後ろから低音が出ていても問題は無いはずなのです。

D-102は前面開口・・・。これは、これで気に入りました。
低音は何処から聞こえても良いはずなのですが、小生はこの前面開口で、ユニットと近い「穴」から聴こえる低音を気に入ったのです。
・・・ユニットと低音の出口が近いことから来る自然さ・・もあると思いました。

このD-102スピーカーは一旦は兄にあげたのですが、結局余り活用されず、小生のオフィスに出戻ってきたので、小生が使っておりました。
すると、これを見初めた人がおり、その彼に拉致されました。
現在は代々木方面で放送関係の分析などの仕事をしている友人オフィスで、活躍しているそうです。

その後、このブックシェルフ型のバックロードは大変気に入りましたので、色々類型を作る事になりました。
長岡先生が逝去されましたので、この設計を下敷きに、仕方なく自分でFOSTEXさんの新しいユニットが発売されると、その新ユニットに合わせて、このD-102や同類のD-99をマイナーチェンジして新たに図面を書いてつくっております。

現在では小生は、おそらくこのブックシェルフ型バックロードを最も作った男・・の一人になると思うのですが・・・。
大げさでした。・・・すみません。
自分が設計変更したものも含めて、3台のブックシェルフ型のバックロードを作っただけでした・・・。ごめんなさい。
D-102(長岡先生作品)
D-99(長岡先生作品、FE-88ESと言う8cmの強力限定ユニット使用)
D-99ES-R(先生ご逝去の後、発売された8.5cm強力限定ユニットFE-88ES-R用に、D-99を土台に自分で数値バランスを計算しアレンジしたもの・・ひと回り大きくなり、別物です。これは追って制作記と図面をお見せいたします)
と3台作りました。

設計だけでしたら、10cm用のD-102を現在のFE108ESⅡという最新ユニット用に全面的に変更したものも既に完了しています。

この続きはまた・・・

※このバックロードホーン形式のスピーカーは、好き嫌いがはっきり出るスピーカーのようで、全くダメで、嫌いと言う方もいらっしゃると聴いております。
耳が良くて、周波数が分かるようなタイプの方にとっては、低音の特定周波数のピークとディップ(特性の凸凹です)が耐え難くて聴いていられない・・・とか、中・高音が雑で・ラフで、うるさくて聞けた物ではない・・・という方もいらっしゃるようです。
有名なスーパースワンでさえも、お作りになってすぐ後、聞けた物ではないので、捨てた・・と言う方もいらっしゃるそうですので、この自作スピーカーについての内容は、あくまで小生の感覚・自分の好みでございまして、客観的な比較や性能の説明とは申せませんので、その点、一ユーザーまたは小生が譲った友人の方の主観といたしまして、悪しからず、お許し頂ければと思います・・・。

01-18-07 11:33